海外安全こぼれ話

2015.07
監事 大日方和雄
ハニー・トラップ(その3 罠にかかっちゃったら・・・)

海外に行くと思わぬ事に出会いびっくりしたり、困惑したり、楽しみはたえない。 前回までに、古代から現代までのハニー・トラップの例などをご披露した。罠にかからないに越したことはないが、人の心はそう原理・原則だけで行くわけにはいかない。 運悪く(そうまことに運悪く)、トラップにはまってしまったらどうするかを考えておくことも大事だ。 まず第1は逃げることだろう。組織の1員ならば任地の上司や本国に相談したうえ、何もかも放り出して逃げる。幸い外国で起こったことだし、旅の恥はかき捨てとばかりに、ただひたすら逃げる、そして日本へ帰ってしまう。家族の間に不調和音を招くことになろうが、家族には謝るしかない。少しは外聞が悪いだろうが、自分がまいた種なのだからじっと耐える。人のうわさも79日のことわざをひたすら信じる。

人の生き方としてそんなことはできないとお考えならば、第2の手はそれを認めることである。身の回りの関係者に相談したうえ、トラップにかかったことを世間的にも認めて謝ることである。このやり方では、慰謝料などの金銭もかかるし、家族の間に不調和音を招くことにもなろうし、場合によっては社会的に非難され信用を落とすかもしれないが、それらは一時的なもので、やがて任期満了となり帰国の日が来るまで耐える。また、これまでアメリカやヨーロッパの国家的指導者がトラップにかかったことを暴かれ大騒ぎになったことが何回もあったが、彼らがいかに対処したかを見習うと良い。(彼らは事実を認め、人として間違った行動をとったことを謝罪した。それらの国では「人は間違うものだし、それを認めたことは誠実な人柄だ」として、その謝罪を受け入れた[家族間のことは報道の埒外]。その結果、彼らは、前よりも影響力は減ったものの、社会の指導者として依然として活動している)

最悪の手は、トラップにかかったことを隠そうとすることだ。言い訳は何の役にも立たない。相手が、たとえば諜報機関員であった場合には、最初から隠そうとするであろうことを期待しているので、特に悪い結果となる。公表し名誉を傷つけるなどの脅迫の末に、やがて国の情報を流したり、会社の技術の核心部分を流したり、会社の経営上の情報を流す羽目になるなど、その悪影響は個人のメンツや体面のレベルにとどまらなくなる。日本へ帰国した後も相手の要求に応じて情報を提供する結果ともなろうし、当事者がオピニオン・リーダーであるならば相手国に有利な言論を展開することにつながる。長期間くらいつくことが彼らの狙いなのだ。甘い話の後には必ずとてつもなく苦い報いが待っているものだ。トラップにかかったことが発覚しても、すぐには頭に血をのぼらせず、冷静に利害得失を比較衡量して、身を処するべきである。